<特集>
公務員の待遇
給与・残業・休暇……etc.
公務員の仕事は人の財産、健康そして生命を守る仕事です。非常時には、その言葉どおり「命をかけて」市民のために奉仕する大変な仕事です。だから公務員は待遇がよいのです。人の生命や財産を守るべき人が、自分の生活の心配をしているようではろくな仕事はできませんから、私は当然だと思います。
公務員の待遇について少しお話しておきましょう。法律に従い、細かく正確に紹介していくとわかりにくいものとなってしまうため、大まかに説明をしておきます。
◆給与
公務員の給与は、国民に公開されることになっており、広報紙などで給与表や平均給与などが毎年発表されています。そこで発表されている給与表などが、公務員試験のガイドブックなどによく掲載されているので、見たことのある人も多いと思います。
しかし、それら表からは実際のところいくらもらえるのかが、なかなか読み取れないと思います。よく言えば、正確にその仕組みを知ってもらうために細かなデータも含めて発表しているということになるのでしょうが、悪く言えば、細かすぎて実際いくらもらっているのかということがわかりにくくなっています。
そこで、もっとわかりやすくするために大胆にいくらくらいかを書いておきます。ただ、地方公務員の場合、全国一律ではありませんから、一つの目安としてください。東京都や東京23特別区あたりを想定して書いておきます。
初任給は、公務員の募集要項や採用案内で発表されているとおり、20万円弱です。初年度の年収は、4月からの1年間ですと、20万円×12ヵ月分、夏のボーナスが1ヵ月分くらい(4月からの勘定になるので通常の半分程度)、冬のボーナスは全額(給与の約2ヵ月分)、期末手当(3月に支給されます)が給与の約1ヵ月分ということになります。ですから、だいたい月給の16ヵ月分が年収ということになります。給与は、基本給のほかにも住宅手当などの手当てがつきますから、所得税の源泉徴収をされても20万円弱は手元に残ります。
では、その後どうなるか。行政事務職の大卒程度試験で採用され、10年ほど勤務し、主任・係長クラスになれば、年収は6〜700万円程度です。23歳で採用されたとすれば33歳くらいでそれくらいはもらえるでしょう。
さらに10年くらいして、管理職にでもなれば年収1000万円は超えるでしょう。40歳過ぎくらいのころです。民間企業でも40歳過ぎで年収1000万円を稼げるサラリーマンはそれほどはいませんから、かなりの高給取りになるわけです。
少し横道にそれますが、公務員の場合、女性の職場としての環境がとても整備されており、女性が結婚・出産・育児などと両立をさせながら働き続けられるようになっています。公務員の世界でも結構、職場結婚が多いのですが、夫婦共働きで両方とも公務員だと、40歳過ぎで夫婦で2000万円の年収ということもありうるわけです。これはすごい額です。
◆残業は?
公務員は時間が決まっていて残業がないといわれることが多いと思いますが、これは違っています。業務の内容によって様々です。「残業」とは、所定の勤務時間外の仕事のことです。通常は朝8時半から夕方5時15分までが勤務時間ですから、5時15分以降も残って仕事をするのを残業といいます。
業務の内容によって、残業のある仕事もあれば、残業が続く職場もあります。行政事務職の公務員の場合、3〜5年おきに異動があり、様々な職場を回ることになりますから、残業の多い時もあれば、少ない時もあるということになるでしょう。
私が公務員の時にも、残業のないセクションに配属になっていたときは、ほぼ毎日5時半には役所を出ていました。逆に、激しいときには、毎晩夜中の2時、3時まで残業していました。終電車が終わっていますから、毎晩タクシーで帰宅していました。
残業をすると超過勤務手当が支給されることになっています。時間内の賃金の125%が支給されますので、残業があればそれだけ給与も増えるということになります。
ここのところ役所は財政難なので事情も違ってくるかもしれませんが、サービス残業ということはなく、ほぼ支給されていると思います。残業時間が多くなれば、基本給よりも残業代のほうが多いなどということもあったりします。ちなみに私が一番多く残業をしたであろう時期は、公団の職員(準国家公務員)でしたが、そのときは夜中の2〜3時まで毎日のように残業をして、ほぼ全部がサービス残業でした。
ただ、総じて見ると残業が必要なセクションは少ないといえるのではないかと思います。緊急の必要があれば24時間体制で市民のために活動するわけですから、平常時は残業などないほうがよいのです。
◆住宅手当
国家公務員の場合、全国に職員のための住宅が用意されており、そこを借りることができます。いわゆる社宅です。家族用の広い住宅を都内で借りても、数万円の負担で住めるようになっています。地方に行けば数千円というところもあったりするようです。生活費の大きな部分を占める住宅費がかなり軽減されます。
地方公務員の場合は自治体によっても違いますが、職員住宅はそれほど数もなく、住宅手当もそれほど多くはありません。最も住宅費用がかかる東京都でも、1万9000円です。
◆賞与(ボーナス)
賞与、俗に言うボーナスを「勤勉手当・期末手当」といいます。年間で基本給の約5ヵ月分が6月(2ヵ月分)、12月(2.5ヵ月分)、3月(0.5ヵ月分)に分けて支給されます。このところの不況による税収減、財政難から少々減少していますが、ほんのわずかな減少です。民間企業の中には、勤続1年以上ではじめてボーナス規定の満額を支給するというようなところがありますが、公務員の場合、採用された年の夏のボーナスから全額支給されます。
◆休暇
年次有給休暇が年間20日与えられ、1年で使いきれなかった分を翌年に20日まで繰り越せるようになっていますので、最大40日の有給休暇をもらえます。これ自体は、民間企業でも同じようになっていますが、実際にこれを取得できるかどうかという点では、大きな違いがあります。
公務員の場合、年間20日の有給休暇をほぼ全部使い切れる状況にあり、現実にほとんどの人が使いきっています。土曜・日曜・祝日などの休日以外に夏休み(3〜5日程度)、年末年始の休暇(12月29日〜1月3日)があるうえで、さらに有給休暇を20日取れるようなところは民間企業ではなかなかないのが現状でしょう。
年間20日の年次有給休暇は労働基準法の定めるところであり、むしろ取れるのが原則です。役所が自ら、これら休暇を取れるようなシステムを維持してこそ、民間企業への見本となり、ひいては民間企業の労働者のためになるわけですから、悪いことではないのです。
これら以外にも、リフレッシュ休暇などの名目で、勤続20年で何日かの休暇が与えられたり、元気回復休暇と称して年間2日ほどの休暇が与えられたりしています。
もちろん育児時間、育児休業、介護休暇などの制度も完璧に機能しています。例えば、育児休暇というのは、1歳未満の子供を養育するために最長1年まで休暇を父親、母親のどちらか片方がとれる制度ですが、父親である男性職員が結構とっています。民間企業で男性社員が育児休業をすれば、ニュースで取り上げられそうなことですが、公務員の世界ではもうそれほど珍しいことではありません。
繰り返しになりますが、これらの制度趣旨を生かし、見本となるべく運用を役所がすることで、民間企業の労働者の地位向上を目指しているのです。
◆福利厚生
公務員やその家族の健康で安定した暮らしを守るために、様々な福利厚生制度、共済組合制度が充実していることも、待遇の大きな魅力のひとつでしょう。
国、各地方自治体ともそれぞれ独自の多様な福利厚生制度を整えています。共済組合も地方公務員、国家公務員のそれぞれで組合を組織するので、組合員の数が数百万人の単位になるため、充実した内容の事業が展開されているのです。
◆研修
行政事務職の公務員は、あらゆる部署に移動させられる可能性があり、昨日まで税金の計算をしていた人が、都市再開発に従事し、4年後には高齢者福祉に携わっているなどということは、別に珍しいことではありません。
人々の生活のあらゆる角度からの知識がなければ、人々の幸福をはかる仕事はできないからだと思いますが、その行く先々ではもちろんプロとして仕事をしていくわけですから、専門的知識を身につけたうえで業務につかなければなりません。そのための研修が頻繁に行われ、職員の資質の向上がはかられます。
研修は、直接業務に必要な知識を習得するための研修から、見識を広め、教養を深めるものまで、多種多様な研修が常時行われています。英語や中国語などの語学研修もよく行われます。勤務時間中に研修を受ける場合がほとんどです。
民間企業のコスト管理や接客態度を学ぶために、民間企業に派遣されたりする研修も行われています。私自身も都市再開発業務を学ぶために2年間にわたり他の役所に研修に行き、その役所の職員として一緒に業務をさせてもらったことがあります。
(喜治賢次)