<特集>

司法試験受験生のための
公務員試験概要


司法試験を受験される方は、択一試験に向けてラストスパートの真っ最中だろう。その勉強が、公務員試験合格にも直結していることは意外と知られていない。択一試験前におおかたの公務員試験の申込が締め切られてしまうため、受験の機会を逸してしまうことが多いのだ。ご自身の将来は限りなく広く考えておいたほうがよい。関心のある試験の申込だけはしておきたい。進路は全部合格してから考えればいいのだ。


 私たち喜治塾には、司法試験受験生の皆さんも多く足を運んでくれる。相談いただく内容は、大きく分けて2つである。
 ひとつは、「司法試験の勉強を通じて行政の役割を知り、行政の仕事をやりたいのだと気がついた」というもの。もうひとつは、「司法試験を続けたいが、このまま勉強だけを続けていくわけにはいかないので、就職したい」というもの。いずれにしても、将来の仕事について真剣に考え、公務員試験への具体的な対策を相談しに来てくれる人たちだ。
 結論から言うと、司法試験の勉強は、公務員試験受験に大いに役立つ。
 将来の仕事の選択肢の一つとして、また法律の知識が生かせる仕事として、公務員の仕事も考えてみてほしい。

  公務員の
  職種と試験

 公務員とひとくちに言っても様々な種類の仕事・試験がある。司法・立法・行政の機関で多くの公務員が働いているのだ。
 たとえば裁判所には、裁判官のほかに裁判官を補佐する「裁判所書記官」、事務を取り仕切る「裁判所事務官」が、業務を遂行している。裁判所事務官になるためには「裁判所事務官試験」を受験し合格しなくてはならない。書記官になるには、まずは事務官として入所し、その後、書記官になるための試験を受ける。
 裁判所では、裁判をより円滑に進めるために、裁判官の業務の一部を書記官に移管する動きが進んでいる。そのため、事務官の職域も広がり、裁判所事務官の役割の重要性が高まっている。人員的には増やす傾向にあり、期待の大きい職業である。
 さて、検察事務官はどうだろうか。検察庁で働くためには、国家公務員試験を受験し、官庁訪問・採用面接を経て検察庁に採用されなくてはならない。裁判所事務官と同じように「検察事務官試験」があるというわけではない。
 このように、公務員試験といっても様々な試験があり、就きたい職業によって受験する試験が異なる。中央省庁およびその出先機関で働きたいのであれば「国家公務員試験」を、参議院なら「参議院事務局」、衆議院なら「衆議院事務局」の試験を受験する。
 また、地方自治体の試験は都道府県庁、市町村で各々行われており、試験内容・日程は自治体ごとに設定される。

  公務員試験の
  科目

 公務員試験の科目は、教養と専門に分けられる。教養試験は、どの試験でも同じような科目(文章理解・数的処理などの知能系科目と、人文科学・自然科学・社会科学などの知識系科目)から出題される。専門試験は、試験種(職種)ごとに必要な専門知識が問われる。
 司法試験の受験生がもっとも対策をとりやすい試験は、前出の「裁判所事務官試験」である。この試験の専門科目は「憲法」「民法」「刑法」のみであり、司法試験の科目と一致する。このため、司法試験の択一試験後から教養科目を集中的に勉強し、6月16日の裁判所事務官試験に間に合わせることも可能なのである。
 裁判所事務官試験の申込み締め切りは5月9日(郵送、消印有効)である。択一試験後に受験を検討しても間に合わないため、仕事に魅力を感じるのであれば、出願だけでもしておくように。国家公務員試験(I種、II種)も同様に5月9日が締め切り日である。
 喜治塾では、択一試験後に集中的に教養科目の対策を行う講座を実施するので、受験を考えている方はぜひ塾に足を運んでほしい。
 また、国家公務員試験や地方自治体の試験は、多くの場合「憲法」「民法」は共通するものの「行政法」や「経済」など司法試験にはない科目が出題される。これらの科目の対策が必要な方は、各科目の塾でのビデオ受講が可能だ。いずれにしても、公務員の仕事・試験について、関心をもってもらえたらと思う。裁判所事務官の出題例を掲載しておくので、ぜひ参考にしてほしい。
 司法試験も公務員試験も「将来の職業」のための試験ととらえ、選択肢を増やすことで目標に近づけることを考えてみていただけたら幸いだ。


裁判所事務官試験の問題例

【憲法】
 次の記述のうち、明らかに誤っているのはどれか(争いのあるときは、判例の見解による)。
1 裁判所で審理中の事件の事実関係について、議院が裁判所と異なる目的から、国政調査権を行使して裁判と並行して調査することは許される。
2 下級裁判所の裁判官の任期は10年であり、その間は裁判官の地位を失うことはない。
3 家庭裁判所は憲法上の「特別裁判所」に当たらない。
4 最高裁判所規則で定められる事項は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項であるが、これらの事項については法律でも定めることができる。
5 憲法82条は、傍聴人が法廷においてメモを取ることを権利として保障しているものではないが、傍聴人が法廷内においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならな
  い。

【民法】
 時効に関する記述として正しいのは、次のうちどれか(争いのあるときは、判例の見解による)。
1 時効の効果はその起算日にさかのぼるが、時効を援用する者は、取得時効の起算日を自由に選択することができる。
2 土地の取得時効が完成するための占有の期間は、常に20年である。
3 土地の取得時効が完成する前に、第三者が土地の所有権を原所有者から譲り受けた場合には、取得時効により土地の所有権を取得した者は、登記がないとその第三者の所有権を主張できない。
4 消滅時効が完成した後に、債務者が時効の完成を知らずに債務の承認をした場合には、債務者は、原則として消滅時効を援用することができる。
5 時効による債権消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときに初めて確定的に生ずる。

【刑法】
 緊急避難に関する記述として明らかに誤っているには、次のうちどれか。
1 危難は生命、身体、自由、財産に対するものに限られず、名誉についても緊急避難が許される。
2 危難の発生原因には制限がなく、自然現象や動物の動作によるものであってもよい。
3 避難行為がやむを得ずにしたものと認められるには、その危難を避けるためには他に採るべき方法がなかったことが必要である。
4 緊急避難は違法性阻却事由であり、避難行為に対しては正当防衛も緊急避難も許されない。
5 避難行為によって生じた法益侵害が避けようとした法益侵害と同価値であっても、緊急避難は認められる。

【教養(数的推理)】
 A、Bがもらったお金の割合は8:5で、A、Bの使ったお金の割合は8:3で、残った金額は、Aが4,000円、Bが4,500円であった。Bがもらった金額に最も近いのは、次のうちどれか。
1 21,500円
2 18,500円
3 15,500円
4 12,500円
5 9,500円