特集 経済科目の学び方(1)
公務員試験の中では、法律科目と並んで出題が多い科目が「経済」です。公務員試験の経済は何を必要としているのか、どのように勉強を進めていけば効率よく習得できるのか。公務員として働くうえでも大切な経済の知識を、受験勉強の中でしっかり身につけよう。

 経済学を
 理解するために

 経済あるいは経済問題、さらには経済学と言うとき、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。
 日本の経済が未だ本格的な景気の回復に至らず、デフレの進行が問題視されていること、銀行の不良債権問題をはじめ金融機関への公的資金投入のあり方など金融システムの再建が懸念されること、2003年7月現在において、失業率が5.3%にのぼり、15歳から24歳の若年層においては14から15%近くにまで高まっていること、また、政府の財政赤字および債務残高は先進国の中で最悪の状況であり、高齢化社会における年金・社会保障制度や租税制度の改革が議論されていることなど、どれも私たちの経済生活にかかわっている問題です。
 さらに国際経済においては、為替レートの変動が及ぼす影響、貿易摩擦、途上国の貧困問題や開発のあり方、地球温暖化といった世界的な環境問題……などが思い描かれるでしょう。
 経済学とは、こうしたさまざまな問題がなぜ生じたのか、それに対処するにはどうしたらよいのか、あるいは経済制度やルールはどうあるべきなのか、といった問題意識のもと、複雑な経済のしくみをさまざまな観点から理解し説明しようと構築されてきた学問分野です。
 
 公務員試験科目
 としての経済学の体系

 経済学説史の扉を開けて、経済学の歴史の始まりをちょっと覗いてみましょう。フランス革命前夜の18世紀の半ば頃、重農学派の創始者であるフランソワ・ケネーが、生産物の分配システムを『経済表』(1758〜59)において表現し、その約20年後には、スコットランドの出身で経済学の父と呼ばれるアダム・スミスが、かの有名な『国富論』で交換・分業システムを説き、「平等・自由・正義」の原則に基づく経済的自由主義の重要性を唱えました。 今日のいわゆる資本主義的生産システムは、18世紀のイギリス産業革命によって形成されましたが、それ以降、さまざまな国における各時代背景のもと、社会的・政治的・経済的な激動の時代において、多くの経済学者たちが数々の学説・理論を唱えながら議論を交わし、国家の経済・社会の発展や国際経済の安定と発展、および学問としての経済学それ自体の発展に貢献してきました。
 今日において、経済学の教科書に体系化されている経済学は、これら経済学者による諸説の蓄積によって構築され、いわば集大成であるとともに、時代を重ねるごとにさらなる進歩を遂げています。
 さて、公務員試験の経済系科目では、経済原論(理論)を中心として、財政学、経済政策、経済学説史、経済史、経済事情といった分野から出題されます。実際には、この他にも経済学という範疇からすると、金融論、国際金融論、公共経済学、国際経済学、貿易論、世界経済論、統計学といった分野にまで及んでいます。ただし、出題の基本は経済原論が中心で、その他の分野については、ある程度、理論の応用という形で学習することができます。 要するに、理論の部分を基礎からしっかりと身につけることが、公務員試験で出題される経済系科目の問題を解くための効率のよい学習につながります。

 ミクロ経済学と
 マクロ経済学

 その理論、すなわち経済原論は大きく「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」に分けられています。以下では、その違いを簡単に説明しましょう。

■ミクロ経済学
  (Microeconomics)
 ミクロ経済学とは、経済活動をミクロ的な視点で(微視的に)捉えようとするもので、消費者の消費活動や生産者(企業)の生産活動、また、政府による公共財の提供や課税のあり方など、個別の経済主体の行動を理論的に見ていきます。
 また、個別の市場(需要と供給から成り立っている市場)で、例えば車や農産物や衣料品などの生産物価格がどのように決定されるのか、といったことを分析の対象とします。まさに市場経済における分析の基本ともいえる需要・供給分析は現実経済における価格の動きを理解するうえで、とても有益な分析道具となります。さらに市場原理をはじめとするミクロ経済理論は、現実経済における規制緩和や貿易問題、課税のあり方などの経済問題に応用されています。
 ミクロ経済学での主な項目は以下のとおりです。
・消費者の合理的行動
(需要曲線の導出)
・完全競争的企業の合理的行動(供給曲線 の導出)
・市場均衡と効率的資源配分(パレート効率)
・市場の失敗(外部性、公共財など)
・不完全競争企業の行動(独占企業や寡占 企業など)
・その他(貿易論、ゲーム理論など)

■マクロ経済学
  (Macroeconomics)
 マクロ経済学とは、一国経済の動きを全体として(巨視的に)捉えようとするもので、国内総生産(GDP)や国民所得、失業率やインフレ率など一国全体の景気の判断材料を、さらには対外的な貿易や資本取引などを分析の対象とします。そこでは、一国の経済活動水準を決定する要因が考察されるとともに、重要なマクロ経済問題である不況(したがって失業)やインフレーション・デフレーションに対処するための経済政策(財政政策・金融政策)、そして対外的には貿易政策や為替政策などについての理論が構築されています。こうした理論に基づくさまざまな経済政策は、そのときの経済状況をふまえて現実経済においても採用されています。
マクロ経済学での主な項目は以下のとおりです。
・国民経済計算
・一国の経済活動水準の決定(国民所得モ デル)
・民間需要の決定(消費関数、投資関数)
・政府部門の活動と財政政策
・対外的取引(輸出と輸入)
・貨幣市場均衡と金融政策
・国際経済と国際金融
・経済成長論
・景気循環論

 経済学を
 学ぶにあたって 

(1)経済学の目的
 経済学は、市場を中心とした消費・生産・交換・分配をはじめ、政府の活動をも含めて、経済活動全般を分析の対象としています。ところで、どのような活動についても、経済主体(消費者・企業・政府)は無意識のうちに「無駄がないよう」にとの配慮を行っています。たとえば、消費活動であれば、限られた予算の範囲内で一番必要なもの・好きなものを購入するでしょうし、企業であれば、消費者が購入するであろうという予想のもと、その生産物の生産に必要な機械や原材料や労働力を無駄なく利用して、売れ残りが生じないよう生産を行うでしょう。
 この「無駄がないように」というのは、経済学的には「効率的に」と表現することができます。一体それはなぜでしょうか。そこには「希少性」という問題があるからです。
 消費や生産といった経済活動に必要なさまざまなモノ(天然資源を含むさまざまな生産資源、労働力、生産された生産物など)は基本的に「有限」である(限られている)のに対し、私たちの欲求は無限に存在します。この無限の欲求をもっとも望ましい形で満たしていくためには、それに必要な有限な資源(希少な資源)を無駄に利用することは「非効率的」であり、より効率的な利用が望まれます。つまり、希少な資源が最も効率よく利用される「経済のしくみ」が必要となるのです。
 そして、こうした資源の希少性という現実のもと、私たちは常に「選択」をせまられることになります。消費者は限られた予算の範囲内で何を買うか(何を諦めるか)、企業は限られた生産設備や労働力、原材料で何を生産するか(何の生産を諦めるか)。また、労働者としては、何の仕事に就くか(何の仕事を諦めるか)、何時間働くか(余暇の時間をどれだけ犠牲にするか)。政府であれば限られた予算でどの政府支出を増加させどの政府支出を削減するのか、といったような選択問題です。
 さて、資本主義経済における市場取引では、価格をシグナルとしてこれらの選択の結果が「需要」と「供給」という形に反映されて「市場」を形成し、この市場こそが、需要と供給に過不足が生じないよう、つまり無駄のない効率的な生産物の配分が行われるよう、重要な役割を果たしています。機械や労働力などの生産要素市場では、それら生産要素の効率的配分が、生産物市場では車やパンや洋服など、さまざまな生産物の効率的な配分が、金融市場では資金(お金)の効率的な配分が行われているのです。
 経済学の理論とは、このように非常に身近な問題をモデル化したもので、複雑な経済事象をすっきりと表現しようという試みなのです。したがって理論を理解する際には、自らの経済活動や選択問題について意識しながら取り組んでいくとよいでしょう。

(次号につづく)